教会の召命と養成を担当する中で、従来のツリー型構造に加えて、中心を持たず自由に広がるリゾーム型の構造が重要であることが明らかになりました。リゾーム的な構造は、異なる文化や背景と接続し、新たな召命や信仰の実践を生み出す柔軟性と無限の拡張性を持っています。この理解を取り入れることで、教会は現代社会の多様なニーズに応え、豊かで活力ある信仰共同体を築くことができるでしょう。
最近、私は教会の召命と養成を担当することになりました。この新しい役割において、日々文書を翻訳したり、教会の動向を観察する中で、一つの共通する動向が浮かび上がってきました。それは、「リゾーム的な構造と理解」の重要性です。
「リゾーム」とは、植物の地下茎(ちかけい)を指す言葉です。イタリア語では「rizoma」と表記します。例えば、竹やショウガのような植物は、地上には目に見えない部分で、地下に茎が広がり、そこから新しい芽が出てくるという特徴を持っています。この地下茎のような構造をリゾーム型と呼びます。リゾームは、一本の幹が上に伸びるのではなく、地下で自由に広がり、様々な場所から新しい芽を出すのです。
これに対して、ツリー型という概念があります。ツリー型の構造は、大木のように中心となる幹があり、そこから枝葉が広がる形を示します。この構造は、はっきりとした中心と、それに従う枝分かれが特徴です。教会の歴史においては、長い間、このツリー型の構造が重要視されてきました。神が中心にあり、その教えが教会という幹を通じて信者に広がり、信者はその教えに従うという階層的な秩序が、ツリー型の特徴です。
私たちの教会も、長らくこのツリー型の構造を基盤にしてきました。特に、創立者アルベリオーネ神父の霊性に基づいて、アルベローネ(大木)と呼ばれる霊性を生きてきたことは、このツリー型の理解を象徴しています。アルベリオーネ神父が描いた教会のビジョンは、大木のようにしっかりと根を張り、幹が空に向かって真っ直ぐに伸び、枝が広がり、そこから実を結ぶというものでした。このような構造は、教会の内部において秩序と一貫性を保ち、信仰の継承が確実に行われるために非常に有効であったのです。
しかし、現代社会の急速な変化と多様化が進む中で、このツリー型の構造だけでは対応しきれない部分があることが見えてきました。教会がその使命を果たし続けるためには、従来のツリー型構造に加えて、新しいリゾーム型の構造と理解が必要であることが明らかになってきたのです。つまり、私たちは大木とその根茎 (Alberone con Rizoma) とセットで教会の構造を捉えるべき時代に来ているのではないでしょうか。
リゾーム型の構造は、特定の中心や階層を持たず、すべての要素が他の要素と等価に接続されているという特徴を持っています。これは、大木のように明確な中心を持ち、それを軸に成長していくツリー型の構造とは対照的です。リゾーム型構造は、地下茎のように、どこからでも新しい芽を出し、新しいつながりを生み出します。中心の不在という特徴により、リゾーム型構造は、様々な要素が共存し、それぞれが独自の特性を持つ多様性と異質性を内包しています。
このリゾーム的な考え方が、聖書の中にも見られます。例えば、マタイによる福音書25章24-26節にある「タラントンのたとえ」では、主人から一タラントンを預かった僕が、主人にこう言います。「ご主人様、私はあなたがまかない所から刈り取り、散らさない所から集める酷な人であることを承知していました…」。この言葉の背後には、主人(神)が、種を撒いていない場所からも刈り取りをすることができるという驚くべき力を持っていることが示されています。
この「撒かない所から刈り取る」という言葉は、通常の農業的な視点から見ると矛盾しているように思えます。通常、作物を刈り取るには、まず種を撒く必要があります。しかし、神の働きにおいては、私たちが予期しない場所、つまり種を撒いていない場所からでも、恵みが芽生え、実を結ぶことがあるのです。これは、リゾーム的な考え方と非常に共鳴しています。リゾームは、固定された中心や階層を持たず、地下茎があらゆる方向に広がり、どこからでも新しい芽が出てくる構造を持っています。このように、神の恵みも固定された場所や方法に限定されるものではなく、予測不可能な場所からも突然芽生えることができるのです。この「撒かない所から刈り取る」という言葉は、まさに神の恵みがこのリゾーム的な広がりを持っていることを示しており、神の働きが私たちの理解を超えて、無限の可能性を持っていることを教えています。
リゾーム型の構造には、接続と切断という特徴もあります。リゾームは、その構造上、要素間の接続と切断が絶えず繰り返され、新しい関係が生まれることが可能です。これが意味するのは、仮に召命や養成といった神の恵みがリゾーム的なものであるならば、これを成長させるためには常に異質と接続していく必要があるということです。異なる文化や背景、価値観と接続し、新しいつながりを作り出すことで、教会はさらに豊かに成長し、信仰の新しい側面や実践が発見されるでしょう。具体的には、他宗教との対話や、文化的に異なるコミュニティとの交流を通じて、新しい召命が芽生えたり、信仰の深まりが促進される可能性があります。それに伴い、修道会や使徒的召命、またその養成もますます充実したものとなっていくでしょう。
このように、リゾーム型の構造は無限の拡張性を持ち、新しい要素が常に追加され、ネットワークは無限に拡大していきます。教会がこのようなリゾーム的な成長を受け入れ、実践することで、未来に向けた活力と柔軟性を持った信仰共同体が築かれるのです。
例えば、リゾーム型の召命活動を考えると、従来の一方向的なアプローチだけではなく、様々な方向からのアプローチを取り入れることが重要となります。リゾーム型の召命活動では、各個人が置かれている状況や背景に応じて、様々な方法で福音の種がまかれ、それがどのように発芽し成長するかが重視されます。これにより、召命活動は一つの固定されたモデルに依存することなく、多様な形で展開されることが可能となるのです。
さらに、リゾーム型の養成活動も同様に、ツリー型の一貫した教育プロセスを補完する形で重要な役割を果たします。リゾーム型の養成活動は、固定されたカリキュラムや教育方法に頼るのではなく、各修道者の個別のニーズや背景に応じて、柔軟に適応することが求められます。例えば、文化的に多様な背景を持つ修道者に対しては、その文化に根ざした養成プログラムが提供され、個々の信仰体験が尊重されます。これにより、修道会は多様な文化や背景を持つ召命者を受け入れることができ、より広範な信仰の共同体を形成するための基盤が築かれます。
このようなリゾーム的な理解は、教会内での様々な文書にも反映されています。例えば、養成セミナーでの指針は、教会が現代社会において柔軟かつ適応的にその使命を果たすための具体的なガイドラインを提供しています。これらの文書は、教会の教えを単なる固定された命令としてではなく、各地域や文化に合わせて柔軟に適用できるものとして解釈することを促しています。
具体的には、「養成における10の指針」では、デジタルメディアを活用したコミュニケーションの重要性が強調されています。この文書は、教会がデジタル技術を通じて福音を広めるための具体的な指針を提供していますが、これをツリー型とリゾーム型の視点でどのように解釈し、実践するかが問われています。
ツリー型の視点から見ると、デジタルメディアの使用に関する指針は、厳密に定められたルールや方針として捉えられ、修道者はそれに従って行動することが求められます。例えば、公式な声明やメッセージの発信は、一定のプロセスや承認を経て行われるべきとされ、統制が重視されます。このアプローチは、教会が一貫性と秩序を保ちながら、そのメッセージを伝えるために有効です。
一方で、リゾーム型の視点から見ると、デジタルメディアの使用に関する指針は、修道者がそれぞれの状況に応じて柔軟に解釈し、適用するべきガイドラインとして捉えられます。ここでは、修道者が個々の文化的背景や社会的状況を考慮し、自主的に最適なコミュニケーション方法を選択することが奨励されます。メッセージの内容や発信方法は、特定のコンテクストに合わせて調整され、状況に応じて新しいアプローチが試みられることがあります。これにより、教会は多様な文化や社会に対してより効果的にアプローチし、福音を広めることが可能となります。
また、養成セミナーでの指針においても、リゾーム型のアプローチは重要です。従来のツリー型の養成では、統一されたカリキュラムに基づき、修道者が一定のプロセスを経て養成されることが重視されてきました。しかし、リゾーム型のアプローチでは、修道者一人ひとりの個別のニーズや背景が考慮され、その成長が柔軟にサポートされます。例えば、文化的に多様な背景を持つ修道者がその文化に根ざした信仰を深めるための特別なプログラムが用意されることがあります。これにより、修道会はその内部で多様な信仰経験が共有され、全体としてより豊かな共同体が形成されるのです。
このように、リゾーム型の理解と構造を教会の活動に取り入れることは、単に新しい方法論を導入するだけではなく、教会の使命を現代社会の中で効果的に果たすための必然的な進化といえます。ツリー型の構造は依然として重要であり、信仰の一貫性や伝統の継承において不可欠です。しかし、それだけにとどまらず、リゾーム型の柔軟性と適応性を持つことで、教会は変化する社会のニーズに応え、より広範な人々に福音のメッセージを届けることができます。
教会がこれからの時代に向けて前進するためには、ツリー型の構造とリゾーム型の構造をバランスよく取り入れることが求められます。ツリー型の構造は、教会の一貫性と秩序を保ちながら、伝統的な価値観や教義を継承するために必要です。一方、リゾーム型の構造は、多様な状況や文化的背景に適応し、新たなチャレンジに対応する柔軟性を提供します。これにより、教会はその伝統を守りつつも、現代の課題に対応するための新しい形で進化を続けることができるのです。
結論として、私たちはツリー型の構造・理解を大切にしながら、リゾーム型の構造・理解を積極的に取り入れることで、教会の使命をより効果的に果たすことができます。大木とその根茎 (Alberone con Rizoma) をセットで捉えることで、教会はその根幹をしっかりと保ちつつも、時代の変化に適応し、新たな生命を生み出すことができるのです。これが、現代における教会の新しい方向性を示すものであり、これからの時代において教会が果たすべき役割を深く理解するための鍵となるでしょう。
リゾームとツリーの比較
特徴 | リゾーム型 | ツリー型 |
構造 | 中心の不在、ネットワーク的構造 | 中心的な幹を持つ階層的構造 |
中心性 | 中心や階層がなく、要素は等価に接続 | 明確な中心(幹)があり、そこから分岐 |
展開 | あらゆる方向に無限に広がる | 明確な方向性を持って成長 |
接続性 | 自由な接続と切断が可能 | 一貫した連続性が求められる |
多様性 | 異質な要素が共存し、変化が可能 | 同質な要素が階層的に配置される |
成長 | 無限の拡張性を持つ | 一方向に向かって成長する |
秩序 | 秩序は動的で、常に再構成される | 固定された秩序が維持される |
影響力 | どの要素も他の要素に等しく影響を与える | 中心からの影響が強く、末端に向かって減少 |
変化 | 絶えず新しい関係が生まれる | 変化は少なく、安定性が重視される |