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福者ジャッカルド神父

清貧と使徒職――福者ジャッカルド神父(22)

 パウロ家独自の四つの面をアルベリオーネ神父は四つの車輪にたとえたが、その四つとは、前述の信心・勉強に加えて、清貧と使徒職である。

 清貧にはいろいろな側面があるが、ここでは労働の面を取り上げることにする。前述したように、勉強したことを生活に生かすのも一つの労働である。この労働は、教会の教えによると、創造主の業への協力であり、贖罪・聖化・生計の手段でもある。アルベリオーネ神父は、幾人かの会員たちの要望に応えて、1953年に『プロヴィデンツァ(摂理)』という文書(131~135)の中で、その労働観を次のように述べている。

 ほんとうの修道清貧は、イエス・キリストの清貧の一部ではないか? 労働者イエスへの労働による崇敬はないのか? 修道者は人一倍、糧を得るために労働しなければならないのではないか? これは聖パウロが自分に課した規律ではなかったか? これは一つの社会的義務ではないか? 使徒は、この労働を行って初めて人前で説教できるのではないか? 労働は私たちを謙遜にするのではないか?

 ……労働は救霊のためになるのではないか? 労働は怠惰や多くの誘惑に陥らないように守ってくれるものではないか? 寄付や募金は新しい事業(たとえば聖堂建築、使徒職の手段)のため、また貧者や志願者のためにだけに使うのがふさわしいのではないか?

 イエス・キリストがこの道を選んだわけは、この清貧の点こそ、まず修復しなければならないからではなかってか? 労働は功徳を積むための一つの手段ではないか?パウロ家が働くならば、もっとも重要な点で、キリストの生涯と一致してくるのではないか?

 ジャッカルドは、どちらかというと、肉体労働よりは頭脳労働に向いていた。前述したように、ジャッカルドの仕事といえば、入会当初から志願者への授業とその生活指導、校正、新聞記事の執筆、会計などであった。それで、印刷とか販売普及とか、その他の肉体労働の経験は薄かった。休暇中に、家庭でわずかに畑仕事を手伝ったことはあるにしても……。

 しかし後に、アルバの母院の院長になってからは、経験豊かな同僚たちの意見を謙遜に聞き入れて、この空白を埋めるように努めた。さらに、両手にタコのできたキエザ修道士の固い手を開いて見て、ジャッカルド院長は「よろしい。パウロ会員はタコのできた両手で、いっそうよく祈れます」と行って、その両手に接吻したそうである。

 アルベリオーネ神父は、自分の子どもたちの養成にあたって、勉強(理論)と広報使徒職(実践)とを結び付けることに苦心した。

 アルベリオーネ神父の考えによれば、広報使徒職のもっとも大切な部門は「創作・編集」と「販売普及」である。もちろん、草創期には印刷・製本も重視されていたが、時代の流れとともに外部の業者に任せるところも出ている。

 「創作・編集」と「販売普及」とをパウロ家が優先するわけは、パウロ家独自のカラーや聖書的考え方・生き方をマスコミの中に浸透させて、その福音的内容を視聴者に直接伝える宣教者、使命感にあふれた「み言葉」の宣教者に徹するためである。

 パウロ家のこの広報使徒職の原点が、キリストの「山上の説教」の場面にも似た状況の中で、アルベリオーネ神父がその草分けの人びとに話した労働観にも見られる。この時の様子を、ジャッカルドは、1918年5月2日の日記帳の欄に生き生きと書き残している。

 昨日、私たちは使徒職を半日にし、外へ出て畑の中で夕食をしました。遊んでから食前の聖歌を一つ歌いました。敬愛する神父様は、草木の中で短い話をしました。私たちは二つの理由でメーデーを祝います。

 第一の理由は、聖母マリアの月の初日ということです。第二の理由は労働の祝日です。私たちは、ある意味で労働者です。労働をたたえ祝いましょう。昔は労働は軽蔑されていました。イエスは労働を聖とし、ご自分の模範で労働が尊いものであることを示してくださいました。……私たちは労働を愛し、それを誇りとしなければなりません。

 アルベリオーネ神父のいう四輪車のもう一つは使徒職であるが、これは後でもしばしば出てくるので、ここでは割愛することにする。これまでも、ジャッカルドはアルベリオーネ神父の訓話や注意や矯正に徹底的に従順し、四つの車輪(信心、勉強、清貧、使徒職)をバランスよく保ち、丹念に保守・点検し、毎日性能を高めた。

 つまり、アルベリオーネ神父の勧めに従って、日々、すべての面で少しずつ進歩したのである。そして、この四輪車、なるべく早く、上手に運転しながら、少年時代からの念願である司祭職という目標へ向かって前進したのである。

・『マスコミの使徒 福者ジャッカルド神父』(池田敏雄著)1993年
※現代的に一部不適切と思われる表現がありますが、当時のオリジナリティーを尊重し掲載しております。

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