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キリスト教知恵袋

葬儀における焼香について

 歴史的観点から、典礼で使われる香の意味について少し触れましょう。

 日本文化に定着している焼香は、歴史的変遷を経て意味とその方法が変化しつつも現代に伝えられているように、教会葬で用いられる香についても同じことが言えます。典礼で香が使われるようになったのは、4世紀頃の東方教会においてですが、それ以前はむしろ異教的表徴として避けました。ローマ教会は7〜8世紀頃になると、教皇への表敬と福音への崇敬から香をたくようになり、9世紀になるとミサでも使われるようになりました。また早い時期から葬儀においても用いたようです。それは洗礼によって聖霊の神殿とされた故人の遺体に対する尊敬とキリストに結ばれた兄弟的絆は、死によっても断ち切られないことを表すためでした。

 このように敬神や人や物に対する祝福・表敬として本来は使われていたのですが、中世後期になると香による清めとしての概念が入り、特に葬儀においては死者の罪の清めと悪霊からの解放のために使われるようになりました。しかし、この考え方はヴァチカン公会議以降の典礼刷新により改められ、本来の意味で死者に対する表敬として香を使うようになりました。ここに司式者の棺に対する献香と墓前での会衆の焼香(日本教会に固有な文化的受容のひとつ)の意味があります。従って、焼香に代える献花も同じ意味で行います。

 葬儀に用いる香について特別な規定はありません。教会には固有なものもありますが、外国から輸入するまでもなく、最近では福音香なる日本製の香が多く使われているようです。葬儀が教会で行われる場合は、教会あるいは葬儀社の用意したもので焼香すればよいのですが、個人的に墓前で祈るときなどは、線香や香道用のものでも差し支えありません。大切なことはたかれる香の材質や形にあるのではなく、その行為が何に向けられているかです。ちなみに焼香の方法ですが回数にこだわる必要はなく、香を摘んだ右手に左手を添え、眼前で少し念じてから焼香します。一回の行為に故人への深い表敬を込めるならそれで十分でしょう。

・回答者=南雲正晴神父

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