マタイ福音書はユダヤ教から改宗したキリスト者たちのために書かれていると言われます。そんな背景を念頭におくと、マタイ福音書には他の福音書に比べ、旧約聖書がよく引用されているし、また旧約聖書の内容を引用することで、ユダヤ教の人たちもよく理解することができました。ユダヤ教の人たちがとても尊敬する人として、アブラハム、モーセ、ダビデを挙げることができます。
今日の福音にはモーセの名前は登場しませんが、モーセとの兼ね合いが数多くあります。出エジプト記には、次のような箇所があります。「主はミディアンでモーセに言われた。『さあ、エジプトに帰るがよい、あなたの命をねらっていた者は皆、死んでしまった。』モーセは、妻子をろばに乗せ、手には神の杖を携えて、エジプトの国を指して帰っていった」(出4・19~20)。モーセはファラオによるヘブライ人殺害の命令にもかかわらず、不思議な導きによって助けられていきました。
これがマタイ福音書になると、「起きて、子供とその母親を連れて、イスラエルの地に行きなさい。この子の命をねらっていた者どもは、死んでしまった」(マタ2・20)こうしてマリアとヨセフはエジプトの地からナザレへと移っていきます。モーセが約束の地へと入っていく様子ととても似ています。
こうした二つの関連性で考えてみると、モーセが旧約における導き手であるとすれば、イエスは新約における救い主と描かれていることを感じることができます。旧約の預言の成就やモーセとの関わりを通してほんとうの救い主イエスの登場を考えることができます。モーセの出来事を踏まえることで、イエスがどんな救い主であるかを示そうとする意図がよく見えてきます。
モーセとイエスとの関わりで今日の箇所を読んでみると、みことばの広がりが出てくるのではないでしょうか。
