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キリスト教知恵袋

聖パウロとお金について

 ここではお金に関わるパウロの三つの苦労を取り上げます。第一の苦労は、毎日の生活費に事欠いたということです。これはパウロが「福音宣教者としての権利」を行使しなかったことが原因です。パウロの時代には、「福音を宣教する者は、生活の資を得るための仕事をしなくてもよい権利を持っている」と認められていました(一コリント9・6)。しかしパウロはこの権利を意図的に行使しませんでした。それは「福音を妨げない」ための配慮でしたが、そのぶんパウロはお金に苦労しました。

 わたしたちの労苦と骨折りを覚えているだろう。わたしたちは、誰にも負担をかけまいとして、夜も昼も働きながら、神の福音をあなた方に宣べ伝えた。(一テサロニケ2・9)

 最終的に、パウロは次のような境地に達しました。

 わたしは、自分の置かれた境遇に満足することを習い覚えた。…いついかなる場合にも対処する秘訣を授かっている。(フィリピ4・11〜12)

 そうは言うものの、パウロの経済事情は相当切迫していたようです。パウロの窮乏を見るに見かねて、フィリピの教会の信徒たちは、パウロに支援金を送るまでしています。

 第二の苦労も前述の「権利の行使」と関係しています。「権利」を行使しないことは、私たちには潔いことと思われますが、当時のコリントの人々は、これをパウロが本物の使徒ではないことの証拠だと理解しました。ヘレニズム文化においては、プロの教師は当然のこととして報酬を受け取りました。プラトンもアリストテレスも報酬を受け取っています。報酬を受け取らないパウロは、プロの福音宣教者ではないと判断されたのです。その結果、彼らの心はパウロとその福音から離れました。これに対して、パウロは自分が本物の使徒であることをコリントの信徒たちに説得し、再び信頼を得るために、大変な苦労をしました。

 第三の苦労は、パウロの募金活動から生じました。パウロはエルサレムの信徒たちを支援するための募金活動を、大々的に展開していました。『二コリント』の8章と9章は、募金活動を促進するためのパウロの手紙です。こうしたパウロに対して、「パウロは、表面上は自分のためには金銭を一切求めないフリをしているが、実は裏では信徒たちを『欺き』『だまし取っている』」と非難されました。この非難がもたらした信頼関係の崩壊に、パウロは大変苦しみました。

 わたしたちに心を開いてほしい。わたしたちはだれにも不義を行わず、だれをも破滅させず、だれからもだまし取ったりしなかった。(二コリント7・2)

 確かに、パウロはお金で大変苦労しました。その苦労に福音宣教が深く絡んでいるところが、いかにもパウロらしさを感じさせます。

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